尺骨神経の走行
尺骨神経の走行を示します．左から右へ遠位へ向かっている図になります．
尺骨神経は肘部管を通過して前腕前面（尺側）を走行します．前腕部で尺側手根屈筋と深指屈筋（環・小指）に筋枝を出して手関節部まで走行します．
前腕を走行する尺骨神経は前腕の遠位部で2つに分岐します．1つは手背の方に向かい背側指神経になり手背尺側の感覚を支配します．もう一方は，ギヨン管を通過して浅枝と深枝に分岐します．
浅枝は短掌筋に筋枝し，固有掌側指神経になり掌側面（尺側）の感覚を支配します．深枝は小指外転筋，短小指屈筋，小指対立筋，虫様筋（第3・4），掌側・背側骨間筋，母指内転筋，短母指屈筋（深頭）に筋枝を出します．
尺骨神経麻痺
低位麻痺
ギヨン管などの手関節周囲で尺骨神経が障害されることで発症します．小指球の麻痺および萎縮で小指球は扁平になります．また，鷲手（手筋マイナス肢位）になります．
ギヨン管
豆状骨，有鉤骨，掌側手根靭帯，深横手根靭帯で形成される管腔です．手根管よりも浅く尺側にあります．この管腔内を尺骨神経と尺骨動脈が通過します．ギヨン管で尺骨神経が絞扼されることをギヨン管症候群といいます．
高位麻痺
肘部管周囲で尺骨神経が障害されることで発症します．低位麻痺の症状に加えて尺側手根屈筋，深指屈筋が障害されます．しかし，手関節の運動には他の屈筋群あり，それらの筋が代償するため前腕の運動障害は少ないです．
肘部管
腕骨内側上顆や筋，靭帯で形成される管腔です．肘部管で尺骨神経が絞扼されることを肘部管症候群といいます．
| 障害筋 | ||
| 低位麻痺 | 浅枝 | 短掌筋 |
| 深枝 | 小指外転筋，小指対立筋，短小指屈筋，虫様筋（第3・4），掌側・背側骨間筋，母指内転筋，短母指屈筋（深頭） | |
| 高位麻痺 | 尺側手根屈筋，深指屈筋（環・小指） | |
感覚障害
掌側は環指（尺側）〜小指および尺側の掌側面にしびれや疼痛が出現します．
背側は環指（尺側）〜小指および尺側の背側面にしびれや疼痛が出現します．
ココに注意
手背の感覚を支配する尺骨神経はギヨン管を通過しません．そのため，ギヨンで障害された場合（ギヨン管症候群など）は手背部の感覚障害は出現しません．
検査
肘関節屈曲テスト
肘関節屈曲テストは神経誘発テストです．肘関節最大屈曲および手関節最大背屈位で約3分間この状態を保持します．3分以内に尺骨神経症域にしびれや疼痛の増悪を認めた場合は陽性です．肘部管症候群では陽性になります．
フロマン徴候（Froment’s sign）
フロマン徴候はスクリーニング検査です．母指と示指で紙を引っ張り合います．
母指内転筋や第1背側骨間筋に筋力低下や麻痺がなければ上記のようになります．
しかし，母指内転筋および第1背側骨間筋の筋力低下では，長母指屈筋の代償でIP関節の屈曲が出現します（陽性）．
ワルテンベルグ徴候
ワルテンベルグ徴候はスクリーニング検査です．手指の内転を行い，小指の内転ができない場合は陽性です．第3掌側骨間筋の麻痺により生じます．
指交差（cross-finger）テスト
指交差テストはスクリーニング検査です．隣り合う指を重ねるように指示をします．重ねることができなければ陽性です．背側・掌側骨間筋の麻痺により生じます．
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橈骨神経麻痺｜理学療法士・作業療法士国家試験必修ポイント
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参考文献
・山口昇ほか：標準作業療法学 専門分野 身体機能作業療法学 第3版．医学書院．
・能登真一ほか：標準作業療法学 専門分野 作業療法評価学 第3版．医学書院．
・井樋栄二ほか：標準整形外科学 第14版．医学書院．
