腕神経叢
腕神経叢の簡易的な図を示します.
腕神経叢は第5-8頸髄(C5-8)および第1胸髄(T1)の前枝が形成する神経網です.腕神経叢は根→幹→(索)→束と繋がります.そして多くの末梢神経に分枝します.腕神経叢から出る神経は上肢および上肢帯の筋と皮膚を支配します.また,それらの神経には交感神経も含まれるため,血管の平滑筋や皮膚の汗腺などをコントロールします.
C5-T1の前枝は前斜角筋と中斜角筋の間を通過する部分で神経幹を作ります.そのため,この部分で絞扼されると胸郭出口症候群になります.
胸郭出口症候群
胸郭からの出口付近で神経・脈管が絞扼されることにより出現する症状の総称です.胸郭出口症候群は絞扼部位によって斜角筋症候群,肋鎖症候群,小胸筋症候群に分類されます.
腕神経叢麻痺
腕に引き抜かれるような外力がかかった際に腕神経叢が引き伸ばされて損傷します.腕神経叢麻痺は損傷される神経根によって上位型,下位型,全型に分類されます.
上位型(エルプ麻痺)
上位型はC5・6またはC5・6・7の損傷により麻痺が生じます.上位型は腕神経叢麻痺の中で発生頻度が最も多い神経損傷になります.
上位型では,肩関節外転・外旋,肘関節屈曲・前腕回外が障害されます.特に肩関節内転・内旋,肘関節伸展,手関節屈曲・尺屈のウェイター・チップ肢位(こっそりウェイターがチップを要求する肢位)を呈します.
下位型(クルンプケ麻痺)
下位型はC7・8,T1の損傷により麻痺が生じます.下位型では手関節・手指の屈曲よび伸展と手指の内転・外転が障害されます.また,交感神経の損傷に伴いホルネル徴候が生じます.
全型
上位型と下位型が合併したもので,肩関節より末梢の運動が障害されます.全型の多くは神経根が引き抜かれる引き抜き損傷で発症します.
ココがポイント
腕神経叢は複雑な構造で,神経損傷が数カ所に生じると正確に損傷部位を判断することは困難になります.
節前損傷と節後損傷
節前損傷
節前損傷は脊髄と神経根の連続性が絶たれている損傷です(引き抜き損傷).この場合,自然回復の見込みはありません.
長胸神経麻痺(前鋸筋麻痺),横隔膜神経麻痺,肩甲背神経麻痺(肩甲挙筋,菱形筋麻痺),ホルネル徴候(縮瞳,眼瞼下垂,眼球陥凹)を認めれば,引き抜き損傷が疑われます.
節後損傷
節後損傷は後根神経節の末梢側での損傷です.神経縫合術や神経移植術が適応になります.神経根部には交感神経が存在しないため,発汗障害などの交感神経障害を認めた場合は節後損傷が疑われます.
参考文献
・坂井建雄:PT・OTビジュアルテキスト 専門基礎 解剖学 第1版.羊土社.
・野村嶬:標準理学療法学・作業療法学 専門基礎分野 解剖学 第3版.医学書院.
・山口昇ほか:標準作業療法学 専門分野 身体機能作業療法学 第3版.医学書院.
・立花勝彦ほか:標準理学療法学・作業療法学 専門基礎分野 整形外科学 第4版.医学書院.